治療法

Surgery Firstの適応と非適応を症例で解説

公開日:2025-04-30 最終更新:2025-04-30

Surgery First(サージェリーファースト)は術前矯正を省略し、治療期間を大幅に短縮できる画期的な外科矯正アプローチです。すべての症例に適応できるわけではなく、骨格的なズレの程度や歯の傾斜など、厳密な適応基準が存在します。ミライズ顎変形症クリニックでは、矯正歯科と口腔外科の専門医が連携し、安全かつ確実な治療計画を立案しています。

Surgery First(サージェリーファースト)とは

顎変形症の一般的な治療プロセスでは、まず歯並びを整える「術前矯正」を1〜2年行い、その後に顎の骨を切る「骨切り術(外科矯正)」を実施し、最後に「術後矯正」で微調整を行います。これに対し、Surgery First(サージェリーファースト)は、術前矯正を省略して最初に外科手術を行い、その後に矯正治療を行うアプローチです [1] [2]。

この治療法の最大のメリットは、治療期間の大幅な短縮です。従来の治療法ではトータルで2〜3年かかることが多いですが、Surgery Firstでは1年〜1年半程度で治療が完了するケースが多く見られます [5]。また、手術を先に行うことで、顔貌の改善が早期に得られるため、患者さんの心理的負担を軽減できるという利点もあります。

しかし、この画期的な治療法はすべての患者さんに適用できるわけではありません。術前矯正を省略するため、手術直後の噛み合わせ(咬合)が不安定になりやすく、機能的な咬合を最終的に確立できるかどうかを術前に正確に予測する高度な診断力が求められます [3] [4]。

Surgery Firstの適応症例

Surgery Firstが適応となるのは、主に以下のような条件を満たす症例です。術後の咬合安定性が確保できることが最も重要な基準となります。

1. 軽度から中等度の叢生(歯のガタツキ) 歯の重なりやガタツキが少なく、手術直後にある程度の噛み合わせが得られるケースが適応となります。重度の叢生がある場合は、術前矯正で歯列を整える必要があります。 2. 抜歯を伴わない、または抜歯スペースの閉鎖が容易なケース 矯正治療において小臼歯などの抜歯が必要な場合、そのスペースを閉鎖するのに時間がかかります。Surgery Firstでは、非抜歯で治療可能なケースや、抜歯スペースの閉鎖が術後矯正のみで確実に行えるケースが適応となります。 3. 歯の代償性傾斜が少ないケース 顎の骨格的なズレに対して、歯がそれを補うように傾斜している状態を「代償性傾斜」と呼びます。この傾斜が強い場合、手術で顎の骨を正しい位置に移動させると、歯同士が強く干渉してしまい、適切な噛み合わせが得られません。そのため、代償性傾斜が少ない、あるいは術後矯正で十分に修正可能な範囲であることが条件となります。 4. 術後の咬合が3点以上で安定するケース 手術直後に、前歯と左右の奥歯の最低3点で噛み合わせが安定することが、Surgery Firstを成功させるための重要な要件とされています [3]。

Surgery Firstの非適応症例

一方で、以下のようなケースはSurgery Firstの非適応(従来通りの術前矯正が必要)と判断されることが多くなります。

- 重度の叢生(乱杭歯)がある場合 - 抜歯スペースの確保と閉鎖に長期間を要する場合 - 重度の代償性傾斜があり、術後の咬合干渉が避けられない場合 - 顎関節症の症状が強く、顎位が不安定な場合 - 著しい開咬(オープンバイト)や非対称があり、術後の咬合安定が見込めない場合

これらの非適応症例に対して無理にSurgery Firstを行うと、術後の噛み合わせが安定せず、後戻り(顎の骨が元の位置に戻ろうとする現象)のリスクが高まったり、最終的な治療期間が逆に長くなってしまったりする可能性があります。患者さん第一の視点に立てば、機能的な咬合の獲得を最優先とし、安全で確実な従来法を選択することが重要です。

### Surgery Firstと従来法の比較表

ミライズ顎変形症クリニックのSurgery First治療実績

治療結果、入院期間、生活への復帰時期、合併症のリスクには個人差があります。公開する院内データは対象・期間・集計方法・定義を確認し、個別の治療結果を保証するものではありません。具体的な見通しと主なリスクは、診察・検査の結果を踏まえて担当医が説明します。

Surgery Firstを成功に導くためのポイント

Surgery Firstを成功させ、機能的で美しい口元を獲得するためには、以下のポイントが重要です。

1. 3Dシミュレーションによる精密な術前計画 CTデータや口腔内スキャナーを用いた3Dシミュレーションは不可欠です。骨の移動量だけでなく、術後の歯の移動までをコンピューター上で正確に予測し、最終的な咬合状態をシミュレーションします。 2. 外科医と矯正医の緊密な連携 Surgery Firstでは、手術を担当する口腔外科医と、術後矯正を担当する矯正歯科医の連携が従来法以上に重要になります。手術の限界と矯正治療の限界を互いに理解し、綿密な治療計画を共有できるチーム医療体制が必須です。 3. 患者さんの理解と協力 術前矯正を省略するため、手術直後は噛み合わせが不安定になり、食事がしづらい期間が生じます。また、術後矯正では顎間ゴム(エラスティック)を患者さん自身で装着していただくなど、積極的な協力が不可欠です。リスクや副作用も含め、治療プロセスを十分に理解していただくことが成功の鍵となります。

まとめ:専門医による正確な診断が不可欠

Surgery Firstは、治療期間短縮と早期の顔貌改善という大きな魅力を持つ治療法ですが、適応症例が限られており、高度な診断力と技術が要求されます。ご自身の状態がSurgery Firstの適応となるかどうかは、専門医による精密検査と診断を受けなければわかりません。

ミライズ顎変形症クリニックでは、患者さん一人ひとりの骨格や歯並びの状態を詳細に分析し、最も安全で確実な治療法をご提案いたします。Surgery Firstをご希望の方も、まずは一度ご相談ください。

著者バイライン - 著者:富田大介(ミライズ顎変形症クリニック 統括院長・日本顎変形症学会認定医(矯正歯科)) - 査読者:君塚幸子(日本口腔外科学会認定医・指導医) - 公開日:2026-05-28 - 更新日:2026-05-28

参考文献 1. Thaynan Maximiano Borges, Izabella Sol, Cristovão Marcondes de Castro Rodrigues, Felipe Gomes Gonçalves Peres Lima, Claudia Jordão Silva, Lair Mambrini Furtado. Surgery First Approach in Orthognathic Surgery - Considerations and Clinical Case Report. Ann Maxillofac Surg. 2021;11(2):349-351. DOI: 10.4103/ams.ams_8_21 2. Jong-Woo Choi, Jang-Yeol Lee. Current concept of the surgery-first orthognathic approach. Arch Plast Surg. 2021;48(2):199-207. DOI: 10.5999/aps.2020.01305 3. Narayan H Gandedkar, Chai Kiat Chng, Winston Tan. Surgery-first orthognathic approach case series: Salient features and guidelines. J Orthod Sci. 2016;5(1):35-42. DOI: 10.4103/2278-0203.176657 4. C.S. Huang, Y.-R. Chen. Orthodontic principles and guidelines for the surgery-first approach to orthognathic surgery. International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. 2015;44(12):1457-1462. DOI: 10.1016/j.ijom.2015.05.023 5. Woo Shik Jeong, Jong Woo Choi, Do Yeon Kim, Jang Yeol Lee, Soon Man Kwon. Can a surgery-first orthognathic approach reduce the total treatment time?. International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. 2017;46(4):473-482. DOI: 10.1016/j.ijom.2016.12.006

関連FAQ

Q. Surgery Firstは誰でも受けられますか? A. いいえ、すべての方に適応できるわけではありません。歯のガタツキ(叢生)が軽度であることや、術後の噛み合わせが一定以上安定することなど、厳密な条件を満たす必要があります。重度の叢生がある場合などは、従来通りの術前矯正が必要となります。

Q. Surgery Firstの治療期間はどのくらいですか? A. 症例にもよりますが、一般的には1年〜1年半程度で治療が完了することが多いです。従来の術前矯正を行う方法(2〜3年)と比較して、大幅に治療期間を短縮できる可能性があります。

Q. 手術直後の噛み合わせはどうなりますか? A. 術前矯正を行わずに手術をするため、手術直後は噛み合わせが不安定になります。そのため、術後しばらくは食事がしづらい場合がありますが、その後の術後矯正でしっかりと機能的な噛み合わせを作っていきます。

参考文献

  1. Thaynan Maximiano Borges, Izabella Sol, Cristovão Marcondes de Castro Rodrigues, Felipe Gomes Gonçalves Peres Lima, Claudia Jordão Silva, Lair Mambrini Furtado. Surgery First Approach in Orthognathic Surgery - Considerations and Clinical Case Report. Ann Maxillofac Surg. 2021;11(2):349-351. DOI: 10.4103/ams.ams_8_21
  2. Jong-Woo Choi, Jang-Yeol Lee. Current concept of the surgery-first orthognathic approach. Arch Plast Surg. 2021;48(2):199-207. DOI: 10.5999/aps.2020.01305
  3. Narayan H Gandedkar, Chai Kiat Chng, Winston Tan. Surgery-first orthognathic approach case series: Salient features and guidelines. J Orthod Sci. 2016;5(1):35-42. DOI: 10.4103/2278-0203.176657
  4. C.S. Huang, Y.-R. Chen. Orthodontic principles and guidelines for the surgery-first approach to orthognathic surgery. International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. 2015;44(12):1457-1462. DOI: 10.1016/j.ijom.2015.05.023
  5. Woo Shik Jeong, Jong Woo Choi, Do Yeon Kim, Jang Yeol Lee, Soon Man Kwon. Can a surgery-first orthognathic approach reduce the total treatment time?. International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. 2017;46(4):473-482. DOI: 10.1016/j.ijom.2016.12.006