基礎知識

上顎前突と下顎後退の違い:似て非なる症例

基礎知識約10分で読めます

執筆者

富田大介

査読・監修

君塚幸子

日本口腔外科学会認定医・指導医 / 日本顎変形症学会認定医

参考文献

  • 1. Kunihiko Nojima, Mai Nagata, Tomohisa Ootake, Yasushi Nishii, Takashi Yakushiji, Masato Narita, Nobuo Takano, Kenji Sueishi. Surgical Orthodontic Treatment Involving Mandibular Premolar Extraction in Patient with Mandibular Retrusion Associated with Temporomandibular Joint Osteoarthritis. The Bulletin of Tokyo Dental College. 2018;60(2):139-149. DOI: 10.2209/tdcpublication.2018-0047
  • 2. Kei Miyahara, Kiwako Izumi, Tsuyoshi Moriyama, Keisuke Tokunaga, Tetsuro Ikebe. Quantitative evaluation of the cheek area after maxillary advancement and rotation by orthognathic surgery in skeletal maxillary retrusion. Oral Science International. 2024;22(1):e1259. DOI: 10.1002/osi2.1259
  • 3. Angelo Inchingolo, Assunta Patano, Fabio Piras, Elisabetta Ruvo, Laura Ferrante, Angela Noia, Leonardo Dongiovanni, Andrea Palermo, Francesco Inchingolo, Alessio Inchingolo, Gianna Dipalma. Orthognathic Surgery and Relapse: A Systematic Review. Bioengineering. 2023;10(9):1071. DOI: 10.3390/bioengineering10091071
  • 4. Yoon-Sic Han, Ho Lee. The Influential Bony Factors and Vectors for Predicting Soft Tissue Responses After Orthognathic Surgery in Mandibular Prognathism. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. 2018;76(5):1095.e1-1095.e14. DOI: 10.1016/j.joms.2018.01.005
  • 5. Kai Wermker, Johannes Kleinheinz, Susanne Jung, Dieter Dirksen. Soft tissue response and facial symmetry after orthognathic surgery. Journal of Cranio-Maxillofacial Surgery. 2014;42(6):e339-e345. DOI: 10.1016/j.jcms.2014.01.032

上顎前突(骨格性上顎前突)と下顎後退症は、外見上似ていても原因となる骨格の異常が異なります。正確な診断にはセファロ分析が必須であり、それぞれに適した外科矯正アプローチが必要です。当院では、矯正歯科と口腔外科の専門医が連携し、安全で機能的な咬合を目指す治療を提供しています。

上顎前突と下顎後退の根本的な違いとは

患者さんから「出っ歯を治したい」というご相談を受けることは日常の診療において非常に多くあります。しかし、一口に「出っ歯」と言っても、その原因となる骨格的な問題は患者さんごとに大きく異なります。特に注意が必要なのが、「上顎前突(骨格性上顎前突)」と「下顎後退症」の違いです。 上顎前突は、上顎の骨が標準よりも前方に過成長している状態を指します。一方で、下顎後退症は、上顎の位置は正常であるにもかかわらず、下顎の骨が十分に成長せず後方に位置している状態です。これらは外見上はどちらも上の歯が前に出ているように見えますが、原因となっている顎の骨が上顎なのか下顎なのかという点で、根本的に異なる疾患です。 私たちミライズ顎変形症クリニックでは、患者さん第一の視点に立ち、単に見た目を改善するだけでなく、生涯にわたって健康的に噛むことができる「機能的な咬合」の獲得を最も重要視しています。そのためには、この「似て非なる症例」を正確に見極めることが治療の第一歩となります。

外見上の特徴とEラインへの影響

上顎前突と下顎後退は、どちらも横顔の美しさの指標となる「Eライン(エステティックライン)」に大きな影響を与えます。Eラインとは、鼻の先端と顎の先端を結んだ線のことで、この線上に唇が触れるか少し内側にある状態が理想的とされています。

骨格性上顎前突の場合、上顎が前方に突出しているため、上唇がEラインを大きく越えて前に出てしまう傾向があります。口が閉じにくく、無理に閉じようとすると顎の先(オトガイ部)に梅干しのようなシワができるのが特徴です。

一方、下顎後退症の場合、下顎が後方に下がっているため、相対的に上顎が前に出ているように見えます。横顔を見ると、顎がないように見えたり、首と顎の境界が不明瞭になったりすることが多く、睡眠時無呼吸症候群などの機能的な問題を引き起こすリスクも高くなります。

特徴上顎前突(骨格性上顎前突)下顎後退症
主な原因上顎骨の過成長下顎骨の劣成長
横顔の印象上唇が突出している下顎が小さく、後退している
Eライン上唇がラインを越える下唇がラインより大きく後退する
機能的リスク口呼吸、前歯での咀嚼困難睡眠時無呼吸症候群、顎関節症

セファロ分析による正確な診断の重要性

これらの症状を正確に鑑別するためには、視診や一般的なレントゲン撮影だけでは不十分です。当院では、頭部X線規格写真を用いた「セファロ分析」を必ず実施しています。 セファロ分析により、頭蓋骨に対する上顎と下顎の前後的・上下的な位置関係、歯の傾斜角度などをミリ単位で数値化し、客観的に評価することが可能です。この精密な分析結果に基づいて、患者さんの「出っ歯」が上顎の過成長によるものなのか、下顎の劣成長によるものなのか、あるいはその両方が複合しているのかを正確に診断します。 誤った診断に基づいて治療を進めてしまうと、機能的な咬合が得られないばかりか、顔貌のバランスを崩してしまう恐れがあります。だからこそ、専門医によるセファロ分析を用いた緻密な診断が不可欠なのです。

それぞれの症状に対する外科矯正アプローチ

診断結果に基づき、それぞれの症状に最適な外科矯正の治療計画を立案します。 上顎前突(骨格性上顎前突)に対しては、主に上顎の骨を後方に移動させる手術(ルフォーI型骨切り術や上顎前歯部歯槽骨切り術など)が適応となります。これにより、突出した上顎を適切な位置に収め、正常な咬合と調和の取れた顔貌を獲得します。 一方、下顎後退症に対しては、下顎の骨を前方に引き出す手術(下顎枝矢状分割術など)を行います。下顎を前方に移動させることで、気道が拡大し、睡眠時無呼吸症候群の改善が期待できるという機能的なメリットもあります。 ミライズ顎変形症クリニックは、矯正歯科と口腔外科の両方で日本顎変形症学会認定医を擁する全国唯一の民間施設です。矯正歯科医と口腔外科医が緊密に連携し、術前矯正から手術、術後矯正に至るまで、一貫した高度なチーム医療を提供しています。

ミライズ顎変形症クリニックの治療実績と安全性

当院では、これまでに多くの顎変形症患者さんの治療に携わってまいりました。直近のデータでは、外科矯正の症例数は143例に上り、多くの患者さんに機能的な咬合と自信に満ちた笑顔を取り戻していただいています。 また、患者さんの社会生活への影響を最小限に抑えるため、低侵襲な手術と術後の徹底した疼痛管理・ケアに努めています。その結果、手術後1週間未満で社会復帰を果たされた患者さんが全体の63%以上を占めています。治療後の患者さんアンケートでは、満足度8.9/10という高い評価をいただいており、重篤な合併症の発生件数は0件を維持しています。 これらの実績は、経験豊富な専門医陣による確かな技術と、患者さん一人ひとりに寄り添った丁寧な診療の賜物であると自負しております。

治療におけるリスクと副作用について

外科矯正は、骨格的な問題を根本から解決できる非常に有効な治療法ですが、外科手術を伴うため、リスクや副作用が存在することも事実です。

手術に伴う一般的なリスクとして、術後の腫れや痛み、内出血などが挙げられます。これらは通常、術後数日から数週間で徐々に軽快します。また、下顎の手術においては、オトガイ神経の牽引などにより、下唇や顎の周囲に一時的な知覚鈍麻(しびれ)が生じることがあります。多くの場合、数ヶ月から1年程度で回復しますが、稀に症状が残存する可能性もあります。

当院では、治療を開始する前にこれらのリスクや副作用について十分に時間をかけてご説明し、患者さんに心からご納得いただいた上で治療を進めることを徹底しています。医療広告ガイドラインを遵守し、メリットだけでなくデメリットも包み隠さずお伝えすることが、患者さんとの信頼関係を築く上で最も重要であると考えています。

参考文献

  1. Kunihiko Nojima, Mai Nagata, Tomohisa Ootake, Yasushi Nishii, Takashi Yakushiji, Masato Narita, Nobuo Takano, Kenji Sueishi. Surgical Orthodontic Treatment Involving Mandibular Premolar Extraction in Patient with Mandibular Retrusion Associated with Temporomandibular Joint Osteoarthritis. The Bulletin of Tokyo Dental College. 2018;60(2):139-149. DOI: 10.2209/tdcpublication.2018-0047
  2. Kei Miyahara, Kiwako Izumi, Tsuyoshi Moriyama, Keisuke Tokunaga, Tetsuro Ikebe. Quantitative evaluation of the cheek area after maxillary advancement and rotation by orthognathic surgery in skeletal maxillary retrusion. Oral Science International. 2024;22(1):e1259. DOI: 10.1002/osi2.1259
  3. Angelo Inchingolo, Assunta Patano, Fabio Piras, Elisabetta Ruvo, Laura Ferrante, Angela Noia, Leonardo Dongiovanni, Andrea Palermo, Francesco Inchingolo, Alessio Inchingolo, Gianna Dipalma. Orthognathic Surgery and Relapse: A Systematic Review. Bioengineering. 2023;10(9):1071. DOI: 10.3390/bioengineering10091071
  4. Yoon-Sic Han, Ho Lee. The Influential Bony Factors and Vectors for Predicting Soft Tissue Responses After Orthognathic Surgery in Mandibular Prognathism. Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. 2018;76(5):1095.e1-1095.e14. DOI: 10.1016/j.joms.2018.01.005
  5. Kai Wermker, Johannes Kleinheinz, Susanne Jung, Dieter Dirksen. Soft tissue response and facial symmetry after orthognathic surgery. Journal of Cranio-Maxillofacial Surgery. 2014;42(6):e339-e345. DOI: 10.1016/j.jcms.2014.01.032

関連FAQ

Q. 上顎前突と下顎後退は、自分ではどちらか見分けることはできますか? A. 外見上はどちらも「出っ歯」のように見えるため、ご自身で正確に見分けることは非常に困難です。セファロ分析などの精密検査を行わなければ、骨格的な原因を特定することはできません。気になられる場合は、専門医による診断を受けることをお勧めします。

Q. 外科矯正の手術後、どのくらいで仕事や学校に復帰できますか? A. 手術の範囲や患者さんの回復状況により異なりますが、当院のデータでは、63%以上の患者さんが手術後1週間未満で社会復帰を果たされています。デスクワークなど身体的な負担の少ないお仕事であれば、比較的早期の復帰が可能です。

Q. 治療期間はどのくらいかかりますか? A. 一般的に、術前矯正に1〜2年、手術後の入院期間が数日〜1週間程度、その後、術後矯正に半年〜1年程度かかります。トータルで2〜3年程度の治療期間を要することが多いですが、患者さんの症状によって変動します。

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※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的アドバイスではありません。 治療の適応や詳細については、必ず専門医にご相談ください。 治療期間・費用・リスク・副作用は症例により異なります。

この記事の執筆者

富田 大介

富田 大介(とみた だいすけ)

ミライズウェルメディカルグループ 代表・統括院長 / 矯正歯科医

日本矯正歯科学会認定医・代議員日本顎変形症学会認定医(矯正歯科)

昭和大学歯学部卒業。東京医科歯科大学大学院(現・東京科学大学)咬合機能矯正学分野修了。ミライズウェルメディカルグループ代表・統括院長として外科矯正の矯正歯科側治療計画を専門とし、Surgery First・Early Surgeryの豊富な臨床経験を有する。東京科学大学(旧東京医科歯科大学)でデジタル矯正歯科学の教育にも携わる。口腔外科専門医との23年間に及ぶ連携歴に基づく精密な治療計画の立案と、デジタルワークフローシステムの構築を主導。

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この記事の査読者

君塚 幸子

君塚 幸子

口腔外科医 / 日本顎変形症学会認定医・指導医

日本口腔外科学会認定医・専門医・指導医日本顎変形症学会認定医(口腔外科)

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