Le Fort I 骨切り術の基本と目的
Le Fort I 骨切り術(ルフォー・ワン)は、顎変形症に対する上顎骨切り術の中でも最も頻繁に行われる術式の一つです。全身麻酔下で行われ、上顎の骨を鼻の直下で水平に切り離し、理想的な位置へと移動させます。この手術の最大の目的は、単に見た目を美しくすることではなく、機能的な噛み合わせ(咬合)を構築することにあります。 噛み合わせが悪い状態(不正咬合)を放置すると、咀嚼障害や発音障害、さらには顎関節症の原因となることがあります。特に上顎の骨格的なズレが大きい場合、歯列矯正単独での治療には限界があり、外科的なアプローチが必要となります。Le Fort I 骨切り術によって上顎を正しい位置に再配置することで、これらの機能的な問題を根本から解決し、同時に中顔面のバランスを整えることが可能です。 手術はすべて口の中(口腔内)から行われるため、顔の表面に傷跡が残ることはありません。上顎の骨を移動させた後は、チタン製の小さなプレートとスクリューを用いてしっかりと固定します。これにより、術後の早期回復と安定した噛み合わせの獲得を目指します。
症状に合わせた術式の選択基準
患者さんの骨格的な特徴や噛み合わせの状態によって、Le Fort I 骨切り術の具体的な移動方向や術式は異なります。ここでは代表的な術式とその適応について解説します。
| 術式 | 主な適応症状 | 目的と特徴 |
|---|---|---|
| 上顎前方移動 | 上顎発育不全、骨格性反対咬合(受け口) | 後退している上顎を前方に引き出し、中顔面の陥没感を改善します。気道の拡大効果も期待できます [1][4]。 |
| 上顎後退 | 上顎前突(出っ歯)、ガミースマイル | 前方に出ている上顎を後方に下げます。軟組織(顔の皮膚や筋肉)の変化を予測しながら慎重に移動量を決定します [2]。 |
| 分節骨切り | 開咬(オープンバイト)、複雑な歯列不正 | 上顎骨をさらに複数のブロックに分割し、個別に移動させます。より複雑な噛み合わせの改善に有効ですが、高度な技術を要します [3]。 |
上顎前方移動
上顎の成長が不十分な場合や、下顎が相対的に前に出ている骨格性反対咬合の患者さんに適応されます。上顎を前方に移動させることで、中顔面のボリュームを回復し、横顔のシルエット(Eライン)を改善します。また、気道が広がることで、睡眠時無呼吸症候群の改善にも寄与することが報告されています [4]。
上顎後退
上顎が前方に突出している上顎前突や、笑った時に歯茎が大きく見えるガミースマイルの改善に用いられます。上顎を後方や上方に移動させることで、口元の突出感を解消します。ただし、上顎を後退させすぎると鼻の形が変化したり、気道が狭くなったりするリスクがあるため、術前の精密なシミュレーションが不可欠です [2]。
分節骨切り
前歯が噛み合わない開咬(オープンバイト)や、上顎の歯列弓(歯並びのアーチ)の幅が狭い場合などに適応されます。上顎骨を全体として移動させるだけでなく、前歯部と臼歯部(奥歯)など複数のブロックに分割して個別に位置を調整します。非常に複雑な噛み合わせの改善が可能ですが、血流障害のリスクを伴うため、より高度な外科技術が求められます [3]。
これらの術式は単独で行われることもありますが、下顎の骨切り術(下顎枝矢状分割術:SSROなど)と組み合わせて行われること(上下顎同時手術)が多く、患者さん一人ひとりに最適な治療計画を立案することが重要です。
ミライズ顎変形症クリニックの治療実績と安全性
当院では、患者さんが安心して治療を受けられるよう、徹底した安全管理と精度の高い手術を追求しています。ミライズ顎変形症クリニックは、矯正歯科と口腔外科の両方で日本顎変形症学会認定医を擁する全国唯一の民間施設です。 これまでに143例の顎変形症手術を手がけており、患者さんの術後満足度は8.9/10と高い評価をいただいております。また、手術の精度向上と低侵襲化に努めた結果、重篤な合併症は0件を維持しています。さらに、社会復帰までの期間が1週間未満の患者さんが63%以上を占めており、早期の日常生活への復帰をサポートする体制が整っています。 当院の統括院長である富田大介は、東京都の民間クリニックで唯一の日本顎変形症学会認定医(矯正歯科)であり、名誉顧問・医学博士の大村進とともに、高度な専門知識に基づいた治療を提供しています。また、執筆者である君塚幸子は日本口腔外科学会認定医・指導医として、数多くの難症例の手術を担当してきました。
手術のリスク・副作用と術後の経過
医療広告ガイドラインに基づき、Le Fort I 骨切り術に伴うリスクや副作用についても正しく理解していただく必要があります。 手術は全身麻酔で行われるため、一般的な麻酔のリスクが伴います。術後の主な副作用として、顔の腫れ、内出血、鼻閉感(鼻づまり)、上顎や上唇の知覚鈍麻(しびれ)などが挙げられます。顔の腫れは術後3〜4日目をピークに徐々に引き始め、数週間で目立たなくなります。知覚鈍麻などの神経症状の多くは、術後数ヶ月から半年程度かけて徐々に回復していきます。 また、骨を移動させた後、筋肉の引っ張りなどによって元の位置に戻ろうとする「後戻り(リラプス)」が起こる可能性があります [5]。これを防ぐためには、術前・術後の矯正歯科治療が不可欠です。当院では、口腔外科医と矯正歯科医が緊密に連携し、長期的な安定性を見据えた治療を行っています。
まとめ:機能的な噛み合わせを取り戻すために
Le Fort I 骨切り術は、上顎の位置異常に起因する噛み合わせの問題を解決するための強力な治療法です。上顎前方移動、上顎後退、分節骨切りなど、患者さんの状態に応じた適切な術式を選択することで、機能的かつ審美的な改善が期待できます。
手術を検討される際は、リスクや副作用も含めて十分に理解し、信頼できる専門医に相談することが大切です。当院では、初診相談にて患者さんのお悩みやご希望を丁寧にお伺いし、最適な治療プランをご提案いたします。
著者:君塚幸子 口腔外科医・日本口腔外科学会認定医・指導医
監修・査読:富田大介 統括院長・日本顎変形症学会認定医(矯正歯科) ※東京都の民間クリニックで唯一の日本顎変形症学会認定医(矯正歯科)
名誉顧問:大村進 名誉顧問・医学博士
公開日: 2026年6月11日 更新日: 2026年6月11日
参考文献
- Song F, Xu X, Li Z, Liu X. Stability of maxilla after segmental Le Fort I osteotomy combined with anterior maxilla clockwise rotation in patients with maxillary hypoplasia: a retrospective study. BMC Oral Health. 2025;25:809. DOI: 10.1186/s12903-025-06057-4
- Lee JY, Kim YI, Hwang DS, Park SB. Effect of setback Le Fort I osteotomy on midfacial soft-tissue changes as evaluated by cone-beam computed tomography superimposition for cases of skeletal Class III malocclusion. International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. 2013;42(6):790-795. DOI: 10.1016/j.ijom.2012.11.012
- Haas Junior OL, Guijarro-Martínez R, de Sousa Gil AP, da Silva Meirelles L, de Oliveira RB, Hernández-Alfaro F. Stability and surgical complications in segmental Le Fort I osteotomy: a systematic review. International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. 2017;46(9):1071-1087. DOI: 10.1016/j.ijom.2017.05.011
- Karabekmez FE, Kleinheinz J, Jung S. Dimensions of Velopharyngeal Space following Maxillary Advancement with Le Fort I Osteotomy Compared to Zisser Segmental Osteotomy: A Cephalometric Study. Biomed Res Int. 2015;2015:389605. DOI: 10.1155/2015/389605
- Shujaat S, Shaheen E, Politis C, Jacobs R. Three-dimensional evaluation of long-term skeletal relapse following Le Fort I maxillary advancement surgery: a 2-year follow-up study. International Journal of Oral and Maxillofacial Surgery. 2022;51(4):501-508. DOI: 10.1016/j.ijom.2021.07.006
関連FAQ
Q. Le Fort I 骨切り術の入院期間はどのくらいですか? A. 患者さんの状態や回復具合によって異なりますが、一般的には術後1週間程度の入院が必要です。当院では、早期の社会復帰をサポートする体制を整えており、多くの方が1週間未満で退院されています。
Q. 手術後の痛みは強いですか? A. 術後数日は痛みや腫れが出ますが、適切な痛み止め(鎮痛剤)を処方することでコントロール可能です。痛みの感じ方には個人差がありますが、時間の経過とともに和らいでいきます。
Q. 術後に食事は普通に取れますか? A. 術後しばらくは噛むことが難しいため、流動食や柔らかい食事から始めていただきます。骨の治癒状態を確認しながら、徐々に通常の食事へと戻していきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的アドバイスではありません。 治療の適応や詳細については、必ず専門医にご相談ください。 治療期間・費用・リスク・副作用は症例により異なります。


